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1話 柏木あきら/「ヒットメーカー」

あらすじ

自社ブランドの新イメージキャラを探していた高見。広告代理店の弓谷からプレゼンされたのは、街のライブハウスで活躍する美少年ロックバンド『WINGS』だった。 女性タレントの起用しか考えておらず乗り気ではなかった高見だが、二人の様子を目の当たりにしてその考えが変わっていく。 イメージキャラクターの起用、BSRフェスのスポンサー枠獲得という賭け引きの中、WINGSのフェス出場をどう推すか……業界のやり手リーマン・高見や弓谷たちの奮闘を描いたBSR前日譚と、当日のデート話をお楽しみあれ。

著:柏木あきら

(今日は暑くなりそうだな……)

早朝の駅前ロータリー。初夏の空は雲ひとつない。
高見優一(たかみゆういち)は空を見上げながら、今日一日の天気を思った。
そんな高見の前に黒のRV車が滑り込んできて停車する。助手席側のウィンドウが下がり、中から聞こえたのは朝から元気いっぱいの声。
「高見さん、お待たせしました!」
運転していたのは高見の恋人、櫻井夏生(さくらいなつお)だ。高見は助手席に乗り込んでドアを閉める。
高見を乗せると、ふたたび滑らかに車は動き出す。昔から人気のあるこのRV車は、大人二人が乗っても狭く感じない。
車内で流れているのは地元のFM局の放送だ。

「すまないな、車出してくれて」

高見のその言葉に夏生は微笑みながら言う。

「いいんですよ。たまには動かさないと!それに僕、運転好きですし。遠出って楽しいですよね」

恋人といってもまだ付き合いはじめの二人。県をまたいでの移動は初めてだ。
高原キャンプ場で行われるSUMMERROCKFESTIVAL B.SAKURA 2020へ二人で出かけることになったのは、高見の務める会社BondsがこのBサマーロックの協賛になっているから。そしてBondsのイメージキャラクターWINGSが今回、初出場の切符を手にしたからだ。WINGSの大ファンである夏生は高見から電話でそれを聞いた時、スマホ越しに大喜びしていた。

「Bサマーロックに参加なんて凄すぎますよ!あのHopesに選ばれたってことですもん!あああここからWINGSはどんどん手の届かないところへ行ってしまうんですねえ」
「……ええと、とりあえず落ち着こうか」

いまだに興奮が冷めやらない夏生に、高見は苦笑した。高見自身は音楽にあまり興味がない。
実は今回、協賛の話が出るまではBサマーロック、と言う名前は知っていたがどの規模だとか全く知らなかった。また、今回はロックバンドHopesが絡んでいると言うことも初めは知らずにいた。Hopesが推薦したアーティストが出演するという。
流石の高見もHopesは知っている。大学生の頃は何度も聴いていたし、カラオケでみんな熱唱していた。

不意にカーラジオから「Hopes」の曲がタイミングよく流れてくる。丁度このBサマーロックの紹介をしているようだ。流れてきた曲は、高見がバイトしていた頃に流行った曲。懐かしいな、と思わず目を細める。今年、彼らが十周年を迎えてテレビやラジオで最近よく楽曲を耳にする。そのつどその曲が流行った当時の情景が浮かぶ。音楽とは単に聴くだけではなく、記憶を呼び戻すものなのだとつくづく高見は感じていた。 

そんな国民的人気ロックバンドに選出され初の出場となったWINGSの二人。ライブハウスで活動していた彼らにこのチャンスの切符を渡したのは、他の誰でもない自分たちなのだ。そんな大きなことを言うと、色んなところから怒られそうだけど。

Hopesの楽曲を聴きながら、車を走らせる夏生。夏生もまたHopes世代だ。

「そういえば、WINGSを起用しましょうって持ちかけてきたのは及川さんでしたっけ。どこでWINGSを知ったんですかね?あまり詳しくなさそうなのに」
「ああ、及川くんが持ってきたと言うより、弓谷さんだよ。あの人が企画したのを及川くんが色をつけてうちに持ってくるからさ。弓谷さんは俺の前の担当からお世話になってるから……」
そう言いながら、高見はWINGSと弓谷の話を始めた。

***

話は数ヶ月前に戻る。
Bondsと弓谷の付き合いはもう八年目に入っていた。弓谷がまだ大手広告代理店にいるときに担当となり、その後独立した弓谷を、Bondsの当時の担当がいたく気に入り、弓谷の会社sequenceと契約。その後、弓谷の手腕を買った担当は大手広告代理店へ発注せずにsequenceへ一任するようになった。
Bondsはスキンケア商品を扱う会社だ。リップクリームや制汗剤、クールダウン商品などを販売している。
今、弓谷が引き受けている仕事はそんなBondsの「イメージキャラクター」の選出と今後の企業イメージ展開だ。スキンケアイコール、女性のイメージが強いせいか、今までのキャラクターは全て女性。爽やかなイメージで売っていた。
今回、現在の女優の契約が切れることもあり一掃しようとの声が上がり、その選出を任されている。

弓谷が真っ先に感じたことは「女性にしない」と言うこと。
今やスキンケアは女性だけのものではない。男性もののラインの商品のキャラクターを男性がやっているのは多いが企業イメージキャラクターに起用しているのはまだ少ないように感じていた。ただ話題作りだけのために男性を起用するのはかえってリスクがある。
それなりに「爽やか」でなければならないし、まだ「艶」がなければならない。金を出せば該当する俳優もいるのだが……

「弓谷さん、そろそろどうですか」

及川に背後から声をかけられてハッとする。時計を見ると十九時前だ。本来ならまだデスクワークに勤む時間だがここ最近残業が多くなってしまい早めに切り上げることにした。ふう、とため息をついて背伸びをする。

「それで、いい店はあったのか?」

パソコンの電源を落とし、支度を始めていると及川が小さな名刺を渡してきた。

「先日、ここの店がいい感じだってクライアントさんが名刺をくれたんです」

早く帰るなら、少し飲んで帰りませんか?と昼休憩に及川が弓谷をさそった。一社員である及川が、社長である弓谷を誘える理由はただ一つ。二人は恋人同士だから。
INFINITYと書かれていたその名刺を見ながら、行ってみるか、と弓谷は答えた。

そんなに大きくはないライブハウス兼音楽カフェであるINFINITYは、仕事帰りに夜にはちょうどいい感じの雰囲気だ。カウンターでアルコールをオーダーし、店内を見渡す。最近ショットバーやアイリッシュパブには行っていたが久しぶりのライブハウス。ステージでは大学生くらいの三人組が歌っていた。

「若いなあ」
「あっ、でもいい感じじゃないですか。ステージの子達」
「そうか?聴けたものじゃないぞ」
「ゆ、弓谷さん……」

そう言っている間に、ステージの演奏が終わり、次の演者へバトンタッチの時間となった。その間にも客は途絶えることはない。中々の繁盛ぶりだ。その中で不意に弓谷はひとりのバーテンダーに目をやった。
金髪に緑のメッシュという目立つ髪色、薄暗い店内でも分かるような白い肌。まだ幼く見える顔……高校生だろうか?

「お待たせいたしました」

オーダーしていたギムレットを差し出してきた他のバーテンダーに彼のことを聞いてみる。

「ああ、光ひかるですか。この後演奏しますので、是非よかったらお聞きください」
(バンドやってるのか)
「弓谷さん、どうかしました?」
「いや……」
次の演奏、と言っていたがあのような細い体で何を演奏するのだろう、と気になりステージの上に立つのを及川と雑談をしながら待っていた。

「あれ、女性のお客さん増えましたねえ」
「これからWINGSですから」

カウンターの奥にいた、少し年輩の男性が話しかけてきた。このライブハウスのオーナーだと言う彼は気さくに話しかけてきた。

「へえ、人気あるんですねえ」

照明が暗くなり、ステージが明るくなる。そこに立っているのは先ほどの金髪の子と、黒髪の子だ。金髪の子はピアノの前に立っている。

(……ピアノ?)

身なりからするとエレキギターのなどの担当かと思っていたが、いい意味で裏切られた。弓谷はなんとなく面白くなってきて二人を凝視する。

「こんばんは!WINGSです」

少し甘い声の黒髪の子がMC担当のようだ。少しだけ挨拶をすると、金髪のヒカル、と呼ばれた方がピアノを奏で始めて、黒髪がギターでセッションを始めた。客席の女の子たちの黄色い声援にも負けない歌声が響く。

「わー、ピアノの音、繊細なのに迫力ありますねえ。あんなに若いのに」

及川も思わず声を出した。爽やかな歌声に合わすピアノの旋律。たまに二人は目線を合わせながら微笑む。そんな光景は、他のアーティストにもよくあること。それなのに目が釘付けになるのは、彼らが独特の雰囲気をかもし出しているからだ。嬉しそうにセッションしているときの笑顔は無邪気な「少年」だが、不意に視線を落としピアノに向き合う表情はなんとも大人っぽく……、いや「艶」が垣間みれる。ヒカルだけではなく、隣の黒髪の子も「少年」の一言では表せられない雰囲気を持っていた。
(この子たちは……)

「いいでしょ。ウチの子。あの二人見てるとこっちまで元気になっちまう」

オーナーはガハハと笑って再度、話しかけてくる。

「ええ、分かる気がします!あ、でもまだ若いでしょ?高校生ですか?」

及川がそう聞くとそうそう、とオーナー。

「もう少しで卒業なんだけどな。二人とも十八歳だ。おっと、ちゃんと二十二時にはバイトも終わらせるからな」

ははは、と笑う及川の横で弓谷が腕組みをして二人を凝視していた。
爽やかな少年のように見えつつもこれから見せるであろう大人の艶……
こんな小規模のライブハウスに出入りしているくらいだ。まだ、原石の彼らに気づいている業界人は少ないはずだ。この二人を育てていけば、きっと成功する。
(そうだ、確か今年のBサマーロックは……)

「彼らはどこか、所属してるんですか?」
「え?」
「及川、決めた。Bondsのイメージキャラクターは、WINGSだ。Bサマーロックの協賛もするぞ」

【続きはアンソロジーにて】

原作 スマッシュヒット

この作品は著者の既作品【スマッシュヒット】をお読みいただくと、さらに楽しめます。WINGSも出演していますのでぜひあわせてお楽しみください。

https://twitter.com/fumio015015/status/1286950489213374464?s=20