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8話 ひなた翠/アイのカタチ サマフェス特番

あらすじ

「弾き足りないなら、僕と一緒にステージに立たない?」

サマフェス2日目のゴールドステージ。猛暑のきつい悪条件の中、WINGSの次のステージを任され幕内で待機していたYUZUKIは、ピアノが弾き足りないとごねる今西光の声を聴く。
社長にくぎを刺されて大人しくしてるなんて俺たちらしくないよね。
「これは問題じゃないと僕は判断した!」

大人になっても、いつだって破天荒で挑戦的。でも我儘は時に、大切な人を傷つけてしまう――。
復活し、互いの絆をより深めたHUNTERたちの熱くて激しいライブと、アイのカタチをどうぞ。

原作は①ユズキ編、②恵太編、③悠人編の3作配信中。この物語は、悠人編のあとになります。よろしければ原作も一緒にお楽しみください。

著者:ひなた翠

*** *** ***

―― side YUZUKI

「……ちっ。気に入らねえ」

まじで嫌になる。
真夏のクソ暑い時間帯に歌えって、バカじゃねえの?
盛大に盛り上がるフェスに呼んでもらえたのは歌手として光栄なんだろうけど、な。僕みたいなポッとので歌手が出演できる。出番の時間に文句を言おうもんなら出演できなかった奴らから刺されそうだ。
僕が歌えるのは長瀬誠一郎おじさんの昔の伝手だとか、かもしれないけど……もしかしたら母さんの知り合い説もある、し。HUNTERの今までの実績かもしれない。
いずれにしても僕だけの実力の結果ではないのは確実だ。僕に歌手としてフェスに抜擢されるほどの力量があるとは思えない。
そこらへんの力関係は僕なりにわかっている。

でも、さ。桜庭さんが……つらそうだよ。
熱のこもる舞台袖でスーツで待機って、あり得ない。クールな顔して立ってるけど、スーツの下でかいている汗の量は尋常じゃないよね。
脱水症状で倒れなきゃいいけど。見てると、仕事モードの桜庭さんは水もあまり飲んでいなさそうだし。まわりばかりに気を配って、自分の身体を後回しているから僕は心配だよ。
てか、おじさんが、誰かから恨まれてんじゃね? 腹いせで僕がくそ暑い時間に回されたんじゃ? おじさん、女にはモテるけど。男には嫌われるからなあ。恵太けいたさんが、おじさんを好きってのが不思議なくらいだよ。
未だにおじさんのどこが良くて、惹かれたのか、わからない。
家庭料理はうまいけど、性格は良いとは言えないしなあ。もしかして恵太さんはダメ男に惹かれてしまう人なのだろうか?

『暗転入りまーす』
『音絞れ! 次、YUZUKI&HUNTERの曲にして、音、あげてっ!』
『楽器の入れ替え、さっさとしろっ』
『たらたら動いてんじゃねえよ!』

舞台裏で次の出番の待機をしていれば、袖がやけに騒がしくなる。
WINGSのライブが終わったのだろう。次は、僕たちの番だ。
フェス用のTシャツに視線を落とした。いつもと衣装の雰囲気が違う。ソロ歌手YUZUKIよりも、HUNTERカラー強めでかつラフな格好だ。

「柚希ゆずきくん、緊張は……してなさそうだね」
「悠人はるとさん、大丈夫です。毎度のことですけど、ライブって別に緊張しないんですよね。桜庭さんと話すときのほうが緊張する」
「……だろうね」

はは、と悠人さんが苦笑して、僕の肩をポンポンと二回、優しく叩いた。
頑張ろうな、という無言の合図。

HUNTERがHUNTERとして、八年ぶりに舞台に立つ晴れ舞台に僕が関われたのは嬉しい。桜庭さんが表舞台から消えたHUNTERだけど……曲の雰囲気は変わってない。
僕のワガママを言えば――、桜庭さんと一緒に同じ舞台に立ちたかったな。

『あああ、まだ弾きたりないよ。アンコール、まだあったのに……』
『光ひかる、落ち着いて。仕方ないだろ。時間の関係で』
『ええ? だってまだ時間なら』

WINGSの二人が裏に戻ってくる。大汗で、手には水分補給ようのペットボトルを持っていた。

『勝行かつゆき、時間ならまだあった』
『お前、体調が……』

僕がちらっとWINGSに視線を動かすと、くすっと隣で悠人さんが失笑する。

「柚希くん、もしかして良からぬことを考えてる?」
「え? ああ……一緒にやりてえなって」
「長瀬さんに釘を刺されてなかった?」
「はあ? おじさん? って、問題起こすなって。これって問題?」
「さあ? どこからが『問題』と思うかは……その人次第じゃない?」
「だよな。これは問題じゃないと僕は判断した!」

クククッと、悠人さんが肩を揺らして笑う。抑えて笑っていたようで、耐えられずに「ははっ」と声が漏れていた。

「なあ!」
僕は大きめな声をあげて、WINGSの二人に声をかけた。僕の声に反応し、二人が顔をあげる。

「僕と一緒に、HUNTERのステージに立たない?」
「いいの⁉」
「ちょっとそれは……」

僕の言葉に、光が目を輝かし、勝行が不安そうな顔に変化した。


―― side KEITA
     ◇◇◇

『光……勝手に話をすすめて……何かあったら……』

少し離れた位置から、声が聞こえてきて俺は振り返った。
舞台裏の隅で、発声練習をしていたのをやめると近くにいた白井が「どうした恵太けいた?」と声をかけてきた。

「え? なに?」
「お前が途中で集中を切らすのは珍しいだろ?」
「ああ、まあ……ね」

 あの子、WINGSの……ボーカル。
透き通った綺麗な声だな。

「WINGSの勝行がどうかしたのか?」
「白井、知ってるの?」
「まあ、一通りの情報は持ってる」
「綺麗な声だなって思って。長瀬さん、たぶん……好きな声だ」
「そうか? 長瀬はもっと……こう……」

白井の視線が動き、悠人へと向く。白井と目が合った悠人は、キッと睨んでから顔を背けていた。
長瀬さんの好きな声は悠人なの? やっぱりまだ悠人に気があるんじゃ……と不安が過ったのもつかの間、白井と悠人のやり取りに目を丸くした。
仕事中は恋人の雰囲気を一切に表に出さない白井と悠人が、一目で何かあったとわかるような仕草をするなんて驚きだ。
白井は無表情のままでぴくっと肩を動かして、軽く傷ついている。

「え? 喧嘩中?」
「ちがっ、多分、私が」

俺の顔を見てから白井が、「なんでもない」と口を閉じた。

「そこで言葉を止められると余計に気になるんだけど!」
「WINGSは……確か、耀ようが光の声を気に入って名刺を渡しているはずだ」
「あ。話しを逸らそうとしてる?」
「悠人が……怒るんだ」
「なんで?」
「恵太第一主義って」
「……え?」
「私は仕事で……なのに、悠人は勘違いしてるみたいなんだ。何度かその件について話はしたんだが、信じてもらえない」

俺と話す白井に、悠人がヤキモチをやいてるの?

『怒る』って意味を、白井はもしかしてわかってない? 『ヤキモチ』だって……。
困ったな、と白井が頬を紅潮させて首のうしろを掻いた。フェスのHUNTERが着ているシャツと同じ紺色のシャツの襟口から、赤い斑点が見えた。
キスマークだ。しかもつけて間もない感じ。
もしかしてフェスの会場で、隠れてイチャついていたのかも。

「ははっ。白井って……鈍感だね」
「ちょっと恵太?」

俺は声を出して笑いだす。仕事は優秀なのにな。恋人の気持ちを理解できないなんて、悠人がつらいじゃん。
白井は仕事人間だから、何も考えずに『恵太が』とか言っていたんだろうな。
長瀬さんもよくやるんだよね。仕事で絡みがあるのは、理解しているよ。事務所社長で、悠人はバンドのリーダーだから、俺たちの知らないところで今後の打ち合わせをしたりしなくちゃいけないって。

でも、胸がもやってなる気持ちは止められないんだ。『違う』って思いたい。今はきちんと別れてて、長瀬さんにも悠人にも身体の関係を復活させる気はないってわかってても、『万が一』とか『もしかしたら』とかって不安と恐怖が襲ってくる。
考えだしたら止まらない不安の闇に落ちていく自分にイラついて、ムカついて……つい、長瀬さんに怒って八つ当たりしてしまう。
きっと悠人も同じなんだろうな。俺と白井は八年一緒に仕事をしてきた。その時間の差は埋められないから。不安になるんだと思う。
俺も……長瀬さんとの八年の差は怖いから。

「仕事でどうしてもって時以外は俺に話しかけなくていいよ」

くくくっと喉の奥を慣らして俺は笑い、白井から離れた。
悠人と柚希の輪の中に向かって歩き出す。聞こえてくる言葉に、俺は自然を笑みが零れる。どうやら楽しいライブの計画をたてているようだ。

「好きに演奏していいの? ほんとに?」
「いいよ」
「あとで怒らない?」
「怒らない」
「……やった」

悠人の返答に光くんが嬉しそうに笑い、もらった楽譜を眺めだしていた。
この子はきっとピアノを演奏するのが好きなんだ。弾きたりないって言ってたし、悠人や耀ようみたいなタイプの子かな。何時間でも弾いていられる。
隣に立っている勝行くんは、困った顔を崩さないままで光くんを見つめていた。

「こんにちは」と俺は輪の中に入っていくと、勝行くんがいち早く反応した。
「HUNTERのケイさんですよね? 俺は……」
「相羽勝行くん、だね」
「はい。あの……」
「あー、んー、あれ? 困ったな」
「え?」

俺は喉を抑えながら、喉を鳴らす。痰を出すような行為を数回、繰り返せば、目の前に立っている勝行くんがちらっと光くんのほうへと視線を動かした。

「これから本番なのに。実は昨日から、喉の調子がおかしくて。お願いがあるんだ。俺の代わりにコーラスをしてもらえないかな?」
「はい? ケイ……さん?」
「これが楽譜ね。よろしく」
「ちょ……っと、あのっ!」

半ば無理やりに近い形で、俺は彼に楽譜を委ねるとにっこりと笑う。
一歩前に踏み出して、勝行くんとの距離を縮めると耳元で囁いた。

「責任はHUNTERが負うから。心配でしょう? 一緒に舞台にあがって楽しんでおいでよ」

せっかくの大舞台。二人で楽しんでほしい。WINGSとYUZUKI&HUNTERのライブは盛り上がる。

「ケイさん?」
「喉の調子が悪い俺の代わりによろしくね。君なら絶対に、柚希くんの声に合うと思うんだ」
「ありがとうございます」

WINGSにとって、そしてHUNTERにとって、柚希くんにとっても素晴らしいライブになるといい。
俺は話しが盛り上がる四人の輪からそっと抜け出した。

「恵太っ!」

悠人の声に振り返ると、心配そうな顔をして俺を追いかけて来ていた。

「ライブ……恵太も出よう? HUNTERの復活ライブでもあるのに」
「喉が痛いだなんて、プロ失格だよねえ。長瀬さんと一緒に移動だったから、プライベートで旅行している気分になっちゃって。浮かれちゃった。HUNTERメンバーが若い子の演奏についていけるか、舞台袖で見てるから」

がんばって、と悠人に笑みを送ると肩をポンポンと優しく叩いた。

【つづきはアンソロジーにて】


WEBステージのHUNTER

ひなた先生が前日、ゲネプロやライブ終了後のHUNTERたちを沢山みせてくれてるよ!

オマケの前日&後日談(追記)

夏フェス1日目 夜
https://fantia.jp/posts/416120

夏フェス2日目 夕方
https://fantia.jp/posts/416672

2日目の夕方、ライブ終了後の物語には勝行くんが!WINGSファンも必見、HUNTERの楽屋をのぞき見♬

原作