(19歳夏・大学生勝行×在宅ワーカー光)
甘ったるい夏の話。ワンライ。お題「氷」「アイスコーヒー」
だいぶラブ度進行してる。ヤンデレ勝行が普通に出てくるのでリアタイで更新追ってる方は閲覧注意。
それは真夏の夜の熱でドロドロに溶けてなくなってしまえばいい。
相羽勝行はその日もいつも通り、編曲作業に追われてパソコン作業をしていた。
雨上がり、だんだん蒸し暑くなってきたのでクーラーをつけようと立ち上がったが、リモコンを探しかけて止めた。
同居人・今西光の体調が気になるので、空調をつける前に一度彼の様子を伺った方がいいからだ。だがリビングを見渡すと、いつもなら寝転がってゲームをしているはずの彼はなぜか台所でごそごそしていた。
何か夜食でも作るつもりなんだろうか。
クーラーの件を訊こうと思い、台所に立ち入ると、ちょうどアイスペールにガラガラと新しい氷を追加しているところだった。
「あれ……何か作るの?」
「ああ、クッソあついじゃん。アイスコーヒー飲もうかなって」
「いいな……俺のも作ってくれる?」
「おういいぜ。味はお任せだからな」
「うん、楽しみにしてるよ」
そういいつつ、アイスペールの中から氷をひとかけら拝借して口の中に放り込む。ひんやり冷たい感触が、勝行の舌の上に転がりながら徐々に溶けていく。クーラーなんかよりも大胆で直接的な冷却方法だ。
溶けきるのを待ってもいいが、アイスキャンディのようにかじれば、身体の中に早く冷水をしみ込ませられる。がりがりと音を立てて咀嚼していると、製氷皿を片付けていた光につまみ食いがバレてしまった。
「あ、行儀わる」
「光がいっつもこれやってるの見てたら、俺もクセになっちゃった」
「あーあ。天下の御曹司様も形無しだな!」
光はニヤニヤ笑いながらそう言うと、目分量でブレンドした粉をコーヒーメーカーに投入し、スイッチを入れながら自分もひとつ、氷を手でとって口に入れる。
「ふめはっ」
「何言ってるのかわかんないよ……お前の方こそ、ヨダレまで垂らしちゃって、あーあ。汚いの」
「ふっへえ」
口元から垂れてくる水は、溶けだした氷なのかそれとも。どっちにしても扇動的なその姿に、尋常じゃない熱を感じた勝行は、その唇を指で押して、頬をするりと撫でる。
それは、二人の間にいつの間にかできていた、キスの合図でもあった。
冷たい感触をお互いの舌で味わいながら、何度も重なり合い、昂る体温を上げては下げを繰り返す。氷が溶けていくのが先か、光が快楽におぼれてトロトロに溶けてしまうのが先か……それとも、キスに夢中になりすぎて我を忘れた勝行の思考回路がどろどろに溶けてしまうのが、早いか。
勝負?
なら、負けねーしな。
そう言いながら楽し気に冷たいキスを味わっていたけれど、だんだん気持ちよさにおぼれて膝が言うことを利かなくなってきた。キッチンの流し台に凭れ、反り返りながらがくがくと震えていたら、勝行が背中ごと抱きかかえながらしたり顔で笑う姿が見えた。
負けるもんかとその襟元をつかみ返すと、さらに深く舌を押し込まれ、完全に口を封じられたまま激しく何度も吸い付かれて、意識が遠のきそうになる。
「んっ……、ふ、……っ」
こぼれそうな水をごくりと飲み込みながら、ちっとも離れない勝行の熱い吐息と汗まみれの腕に抱かれて、光はぼんやりとコーヒーメーカーを覗き見た。
濃いめのこげ茶色のそれは二人分、しっかりドリップされた状態のまま、放置されていた。
「かつゆき……こーひー……は、……ぁ、はぅっ……」
「まだ暑いんだ……もうちょっとだけ」
「ん、んぅ……っ」
「ひかる……コーヒーなんか見ないで……なんでよそ見するの」
「……ひぅっ、あ、ああんっ」
キスしてるのは俺だよ。
そう言いながら首に噛り付く勝行の口元は互いの銀糸を垂らし合い、濡れて卑猥に緩んでいるけれど、その目はまったく笑ってない。
もしかすると、夏の熱に浮かされて、とっくの昔に彼の存在そのものが溶けてしまったのかもしれない。いつのまにか今ここにいるのは、彼の中に存在するもう一人の勝行じゃないか。
きっと明日の朝になったらこれ、覚えてないんだろうな。苦笑しながら光は、互いに張り詰めた熱をどろどろに溶かすべく、腰を揺らしながら勝行の背中に手を回した。
ペールに貯めた氷は、コーヒーの投入を待たずしてお互いの身体を冷まし、熱していく。その形は、かわいらしいハートの形を模していたが、すっかり溶けて丸まりながら、ゆるりと転がり落ちた。
おわり